2014年9月那須湯本・宇都宮旅行記初日。

2014年9月19日(金)
 8時50分頃起床。朝は今シーズン一番の冷え込みとかで寒い。昨日やたらと疲れ果ててくたばったので用意不十分。ばたばたと荷物まとめてバナナ食べて9時30分出発。
 今回も黒磯までは途中の久喜まで東武線廻りで行く。このほうが上野からJRで乗るより400円ほど安く、時間もほぼ変わらない。那須に行くのは昨年秋から3回目なので流石に慣れてきた。
 車内は概ね空いており座れた。先日ネットオフで入手した「飯野賢治E0事件の真相」や木山捷平の小説を読んだり、眠ったりする。宇都宮から黒磯に向かう4両の電車は前回と同様混んでおり、開き直って立って車窓を楽しんだ。

 12時45分黒磯着。昨年O下と行った駅前の蕎麦屋「冨陽」に入る。前回は創作蕎麦が美味だったのだが、那須鶏を使った地鶏そば900円也に惹かれた。昨年、風邪気味状態で那須湯本「麺の匠」で食べた地鶏そばの味が忘れられない。結果からいうと、もちろん旨かったのだが記憶の味に届かず。記憶補正が掛かっているかもしれない。

 食べ終わり、東野交通バスの窓口で湯本一丁目までの切符を買う。「切符は降りる時に運賃箱に入れて下さいね」と親切に教えてくれる。勝手は知っているのだが大人しく聞く。
 13時50分バス来る。それなりに乗客は乗っていた。晩翠橋という橋を渡って左に折れると国立公園の敷地に入り、背の高い並木道に突入する。ここでいつもテンションが上がる。旅情が出てきたと思ったのも束の間、Nから仕事の下らないことでメールが入りいらつく。ムカツキを押さえつつ車窓を見て気を紛らす。
 バスの乗り継ぎ中継地点である一軒茶屋で大勢の人が降りた。前回夕飯を食いそびれ、那須湯本から夜道を徒歩片道30分掛けてここのセブンイレブンまで買い出しに来たので、懐かしいと思う。
 間もなく14時17分湯本1丁目着。バスを降りた瞬間奇妙な既視感。一ヶ月しか経っていないのだから当然だが、また来てしまったなーと思う。立ちこめる硫化水素の臭いにテンションが高まる。
 15時チェックインにはしてあるが、とりあえず民宿松葉を目指す。街道を一本入ると民宿街(湯川通り)がある。中腹から入り、緩やかな坂を上がる。このいい感じの寂れ具合、俗化していない感じが初めて来た時から好きだ。ほとんど人とすれ違わない。年季の入った民宿もぱっと見、やっているのかどうかすら不明だ。そのまま廃墟と化しているものもある。
 やがて共同浴場「滝の湯」と、湯川に掛かる小さな橋、その先にある民宿松葉が見えてくる。

 もはや見慣れた光景。前回別の宿に泊まった際も、この一角の佇まいが素敵に映り、いつか泊まりたいと思ったのだが、まさか一ヶ月後に実現するとは分からないものだ(ちなみに二週間ほど前には髭虫氏がここに泊まっている)。
 感慨に浸りつつ民宿を写真に撮っていると、滝の湯からおばさんが現れて一直線に松葉に向かってくるので、押し出されるようにして玄関に入った。最初、泊まり客なのかと思ったら宿のおかみさんらしく、「お泊まりの方ですか」と問われ、促されるままに記帳。

 2階の和室10畳に通される。鍵は先月泊まった遊季荘と異なり、部屋の鍵と共同浴場の電子キーが一緒に付いていた。「くれぐれもなくさないで下さいね」とのこと。「シャンプーはお持ちですか」と問うので「無い」と言うと桶とシャンプーを貸してくれた。「シャンプーは使えますので。ボディシャンプーは、何か使えないという決まりなんですけど」と軽く不服そうな物言いだった。夕食は18時の旨。
 窓を開けて空気を通す。窓から滝の湯が見えた。破れている網戸がティッシュで応急処置されている。風はよく通り気持ちよい。とにかく10畳を占有できるのは贅沢だ。設備は古いテレビデオ、ポット等。ひとまずお茶を入れつつ、煙草を吸って落ち着く。
 15時頃、滝の湯へ行く。

 地元と思しき先客が3名。「こんにちわー」とフレンドリー。間もなくいなくなったので占有状態。浴槽は「熱めの湯」と「ぬるめの湯」の二種。主に前者で頑張る。
 湯の吐出口に棒が突っ込んであるので、引き抜いてみると熱い湯が勢いよく出てくる。これで温度を調整しているのだろうか。しかしこのデザインはフロイト的なアレだなあと思う。棒状である必然性はないような気がする。
 欲張って長湯した後、上がる。この、酸性湯から上がった瞬間の快感は名状しがたく脳髄がパカーンと開く感じがする。滝の湯のいいところは、目の前が湯川で、ベンチもあるところだ。マイナスイオン大量放出だと思う。そこでヘロヘロになり、宿に戻る。水を買っていないことに気づき、ポットのお茶を飲み座布団を二つ折りにして横になると一気に眠気。抵抗せずそのまま落ちる。湯に入って仮眠というのはとても湯治的な過ごし方だと思う。
 40分ほど寝て16時10分に起きる。夕飯前にもう一度湯に入りつつ、商店が閉まらないうちに水等を購入しようと思い外出。ところで共同浴場については「滝の湯」の説明しかなかったが、このキーで坂の下のほうにあるもう一つの共同浴場(行人の湯?)にも入れるはずだった。そこで、試しに坂を下って確認することにした。前回宿泊した「遊季荘」を目視確認。今回は取れなかったが、お気に入りの宿である。

 共同浴場でキーをかざすと、案の定入れた。先客は一人で、地元の人なのか、肩のところに見事な彫り物を入れたおじさんだった。フレンドリーに挨拶。「さっきもお客さんと話してたけどよ、まあいいことないね」とぼやく物言い。「その通りだね」と返す。「九尾祭りっていつまでだか知ってる?」と聞くので「知らない」と返す。なまりが強く、何を言っているのかやや聞き取れず。
 そのうちおじさんは出ていったので、またも独り占め。外装は滝の湯と大きく違うが、内部はそう変わりはない。むしろ古びれた感じがあって、落ち着くという気がしないでもない。よく見ると大量の湯の花。温泉好きからしたら垂涎モノだと思う。
 すっかり長湯して出る。前回も立ち寄った田中商店で水を買う。ビールを迷ったが、部屋に冷蔵庫がないのと、宿の中に自販機があったのを確認したので止した。つまみ用にスティックチーズと、普通の水を買おうと思ったのだが、「飲む温泉 那須おんせん水」という飲泉用の水が売っていたのでこれにする。レジでおばさんが「温泉と書いてありますけど、無味無臭ですので」と教えてくれる。ここの店員さんは接客が気持ちいいので好きだ。
 既に17時頃だったが、温泉神社殺生石を散歩するなら今しかないと思い、早足で見て回る。お盆時の前回に比べて流石に平日夕方は人気が少ない。足湯に入ろうと思ったが素通り。
 17時40分帰宿。夕食に呼び出されるのを部屋で待つ。素泊まりのほうがこういった気兼ねはないかも。持参したiPadを起動すると、何とWi-fiが使用できるので驚いてしまった。
 18時お声が掛かり、1階の広間にて夕飯。

 客は俺の他に40歳くらいの一人客、あとは恐らく建築業者の職人が飯場代わりに長期滞在しているものと思しき四人組であった。40歳くらいの男は謎めいていて、この宿の常連らしくおやじさんと親しく話していたが、2、3日前は青森の十和田湖に遊びに行っており、来週もここに泊まりに来るようだ。しかも「再来週は埋まってるんだよ」と言われており、毎週のように来ているようなのだ。一体何をしている人物なのだろう。
 食事のメニューはそれぞれ異なり、俺のテーブルが一番豪華のように思えた(しゃぶしゃぶの有無が大きい)。刺身、鮎、茄子の味噌和え等。ボリューム満点で、民宿の食事としては旨い部類だった。しゃぶしゃぶ、のろのろ食べていたら火が途中で尽きてしまい、後半生野菜になってしまい失敗。上野公園でもデング熱発生、などのニュースを観て、マジかと思いながら食べる。民宿の飯は、テレビと相性が良いと思うのは気のせいだろうか。
 結局俺が最後までのろのろ食べており、「ごちそうさま」と声をかけて部屋へ戻る。俺は完食したが、他のテーブルを見ると皆豪快に残している。
 部屋に戻り、折角iPadBluetoothキーボードを持ってきたので少し小説を進める。いつか温泉地にカンヅメしてみたいものだと夢想するのだが、結局温泉に入りまくって終了しそうな気がする。

 20時、滝の湯に行く。最初、先客が3名ほど。しかし間もなくいなくなり、占有状態。結局、長湯できるような温泉ではないので回転が早いのだと思う。湯上がり、ふにゃふにゃになりベンチに座る。先ほどの温泉水を持参するのを忘れ、どのみち飲むと思ったので鹿の湯前の自販機でポカリスエットを買う。結局今回も鹿の湯に入らず仕舞いだった。毎回本家に入ろうとは思うのだが、共同浴場が十分素晴らしいのでついどうでもよくなってしまう。
 部屋に戻り引き続きiPadを弄くる。Wi-fiが繋がるとついネットを見てしまうので一長一短だなと思う。布団は押入れにあるのを勝手に出して敷く式。酒が入る前に準備する。
 22時30分寝る前に滝の湯。これで4回目。時間の遅いせいか、終始誰もおらず快適。湯川沿いでマイナスイオンを吸引しようと思い、以前本で読んだように肺の容積をイメージしつつ腹から胸まで一杯に空気を吸い込んだ。
 玄関は既に電気が消されている。玄関前の自販機で、350mlのアサヒを350円也購入。部屋でそれを開けると、盛大に泡が吹き出し、前にも同じパターンがあったことを思い出す。

 歯を磨こうと思ったが、部屋に歯ブラシがないことに気がつく。うっかりして持参してこなかったのでもはや諦める。23時30分就寝。