親父。

とうとう、頭がおかしくなり始めている。
お袋が、夜寝ていて隣で急に唸りだして驚いたという。
最初、普段聞いたこともないような情けない声で
言葉は聞き取れないが何か泣き言をしばらく呟いた後、
今度は一転してどなりつけるような声で何かうめいたらしい。


でも、俺らにしてみれば、さもありなんという気がする。
言いたいことを全く言えてないのだ。
というより、現実を直視できないから、言うべきことすら
まとめることができないのだ。
普段は全てをあってないことにして、写真や、買い物や
政治に逃げているが、夢だけは自分に嘘をつかない。


しかし俺は可哀相などとは微塵も感じない。
結局のところ、内面からの声に耳を傾けられないことが
全ての元凶なのだ。
そのお陰で、周囲の人間、お袋に到っては人生をフイにする程の
迷惑を被っているんであって、せいぜい苦しめばいい。
俺は自分という人間がここまで非情になれるのかと
意外に思う位、とても残酷な気持ちだ。