『田園に死す』

juriano2005-03-05

ツタヤで借りて観た。
森山大道がどこを切り取っても寺山修司、というような
評をしていたので興味を持って観たんだけど、
どこがすごいって、確かにそこが一番すごかった。
どんな絵が撮りたいかということを、迷いなく
分かっていたんだろうなあ。
作品の核になっているのは、人間の自我は過去に
縛られざるを得ないという観念。
俺は曲を作るときにしても、子供の頃に綺麗だなと
感じたものとか、そういう原体験のようなものを
今の感性に乗せて再現することに気を配っているから、
割と普段から昔のことには目を向けるようにしている。
だから個人的にはそういう問題提起はあまり衝撃がない
というのが本音だけど、1975年当時の時代性を思えば
結構爆弾だったのではないだろうか。
当時は戦後意識というものが今よりも切実だったはずだし、
当時の進歩的文化人は、戦争体験を過去のものとして相対化
することで自由を標榜するという意識を強く持っていたはずだ。
けれど、寺山は映画の中ですら「母親殺し」ができず、
死ぬまでトラウマに束縛され続ける。
ラストシーンの、二人で陰鬱に食卓を囲んでいる様子は
暗示的でとても良い。
過去は修正が効かないのだから、それがたとえどんなに
不幸な体験であっても持病と思って付き合っていくしかない。
そこを否定してしまったら足元を失って崩れてしまう。
このシビアな問題提起はしかし、時代性と切り離しても
普遍性を持ちつづけると思う。