ネオテニー・ジャパン@上野の森美術館。

先日、取材帰りにふと思いついて行った。
実はもう2回目だ。
同じ美術展を2回観るなんて結構レア。
あまり人気がないのか知らないけど、2回とも
割と空いていて実に快適に観れた。
(前にここで観たダリ展の混み方は地獄だった)
どんなにいい作品が来ていようと
混んでる展覧会はそれだけでオレは嫌だ。
うんざりして面倒くさくなって途中で出てきてしまう。
そういう意味でも非常によかったな。


作品のほうは、会田誠奈良美智村上隆山口晃。。。
現代アートファンにとっては垂涎の内容。
何で空いているのか分からない。
(でも2回とも閉館間際だったからかも)


あまり間髪を置かずに行ったんだけど、
2回目というのは思いのほかよかった。
また作品に会えたうれしさと、一歩引いて冷静に
観れる余裕があった。
以下印象に残った作家。


鴻池朋子
夥しい数のナイフとオオカミに取り囲まれる少女の足。
血なまぐさいモチーフながら残酷さはなく
むしろ絵本の世界にも似たプリミティブな
イマジネーションが広がる。
アニメーション作品はまさに想像力の旅といった印象。


奈良美智
奈良作品を印刷物でしか触れたことのない人は
やっぱり実際に絵の前に立つ体験をしてみてほしい。
この大きさを前にしないとよさがわかりにくい。
デフォルメされた線とは裏腹に繊細な色調。
紙、キャンバス、綿布とさまざまな
素材の織り成す存在感。
圧倒されると思うんです。
奈良作品は、パッと見が非常にキャッチーなんで、
「カワイイ」という感情だけで安全地帯から
ただ消費される恐れを孕んでいて
(それはそれでパンク的だと思うけど)
オレも最初誤解していたんだけど。
そうじゃないんです。
作品の前に立つと、こっちが見ているんじゃなくて
実は見られていることに気づかされる。
それは鏡でもあって、記憶の中の風景を喚起するもので、
ちょうど海や森だとか、自然の圧倒的なものを
前にする体験と似ている。
まあ捉え方は人それぞれだけど。
そして、モチーフそのものより素材の織り成す
存在感のほうに惹かれる己の嗜好に改めて気づいた。
それは音楽にもそのままスライドできて、
何を唄っても別に構わなくて、雰囲気の醸し出す
フィーリングが重要というスタンスにも通じると思った。
具体的に言いたいことは文章で伝えればいいのだし、
詩や芸術の目指すものは散文では伝えられないところを
フォローすることだという思想が常にある。
話はだいぶ反れたけど、奈良作品を前にするのはとても
心地いい。「Candy Blue Night」、ぜひあの綿布の素材感を
体験してほしい。


会田誠
紐育空爆図屏風(題名曖昧)は、9.11以前に描かれているんだと
気づいてとても不思議だった。
山椒魚はとてもエロイ絵ですけど、
やはりあの圧倒的サイズがすごい。もはや笑えてくる。


山口晃
遠めにはふつうの昔の大和絵
でも近づいてよく観ると、カラオケで唄ってたり
ノーパソをやってたり、ヤンキーみたいのがぶん殴られてたり。
(「今様遊楽園」)
アイディア勝負のようなところもあるけど、
ディティールの描き込みが半端ない。観ていて楽しい絵。


・池田学
描きこみが半端ないといえば、この人が最も凄まじかった。
紙にペンとインクだけで細密に描きこまれた作品「興亡史」が
特にすごかった。
なんと下書きもなしで描き始めるそうだが、
そのせいか独特のパースのゆがみがもはや魅力的。
1作品を描くのに1〜2年費やすとか。さもありなん。
男の子の妄想力が驚異的な技巧で形になったような作品。


・町田久美
マルキ・ド・サド「淫蕩学校」の挿絵。
まさにサディスティックかつエロス。
力強く繊細な独特の線が印象的。


加藤美佳
写真かと思わせるリアルな描写で迫る少女像。
はじめに人形をつくり、それを写し描くという
プロセスを経て描かれているらしい。
生身の人間以上の存在感に圧倒される。


さわひらき
実写映像を組み合わせて、非現実の光景を
つくりだすビデオ作品。
家のなかを歩くスプーン、鍋、トイレットペーパー。
シュールかつオフビート。
渇いたかっこよさがある。


・照屋勇賢
紙袋の一部を木のシルエットに切り抜き、
袋の内部にそれを立ち上げて小さな「森」を
出現させる作品。「ゴディバ」「シャネル」。
ライティングと相まって、ミニマムで素敵。
うっとりする。
袋の中を覗き込む感じがいい。


・青山悟
パッと見、油彩画に見えるのだが
実は全部刺繍という、これもトンデモない作品。
ノスタルジーな校庭(西)(東)の連作がすばらしい。
黄昏の微妙な色彩が刺繍によって魔法がかった
美しさを醸している。


・できやよい
マネキンにしつようなまでに細かい人の顔の
描かれた作品。ほかに水玉、リボンなど。
ポップな色づかいで、草間弥生作品を思わせるが、
病的な感じはなく、むしろ明るく突き抜けている。
人の顔も笑っていたりする。
これも想像力の飛翔といった印象。


以下、まだまだいい作品があるんですが
実はこのあたりで閉館時間がせまり、
オレのメモも途切れている状態。
いずれにしても、日本の現代アートの入り口として
非常にすばらしいコレクションが揃っていると思う。
これを一人の精神科医が集めているというのが
信じがたい。7月15日までなので終了までもうすぐだけど
都合の合う人はぜひ観て下さい。