091128戸張大輔LIVE@神宮前Meconopsis

先週土曜、昼12時〜15時練習後
戸張大輔氏のLIVEをperi君と観に行った。
圧倒的なものを観てしまった。


10年ぶりに行われた9月のLIVEに続く
今回のLIVE。
前売りが速攻で売り切れたらしく
半ばこれもうダメかね?と思っていたが
考えたら僕もperi君もディスクユニオン
CDを買ったときに付いてきた
ディスカウントチケットを持っているではないか。
これ使えば入れるんじゃねーかと思い
メールで問い合わせたところ、案の定入れる模様。


四谷の現場から直で来るという
仕事帰りのperi君とは現地で落ち合うことにして
会場へ向かう。
渋谷AX級の大きなハコを想像していたのだが
会場のホームページを検索しようとしたら
出てこないので怪しい予感はしていた。
行ってみると団地住宅の脇にある、
バーの2Fという超怪しい空間だった。
看板すら出ておらず、非常階段を上った上にある
靴を脱いで入る秘密会員制クラブのような会場だった。
「普段ここ何に使われてるんだ?」
「仮面舞踏会とか乱交パーティーとかしてるに違いねー」
と勝手なことを言いまくる僕ら。
時計仕掛けのオレンジに小道具で出てきそうな
怪しげな石膏彫刻やオブジェが散在している。
鼻が男性器の形を模してある男の顔の
石膏彫刻を見てperi君は
「コレ写真撮ってもいいかな?」と言いながら
写メを撮っていた。


スピーカーがぞんざいに置いてある
からっぽな空間の地べたに座り開演を待つ。
ステージもない。
人に揉まれながら見るとばかり思っていたのだが、
客は全部で40人くらいだったんじゃないだろうか?
戸張大輔はどう考えてももっと大物だろう!
憤りつつも至近距離で目撃できる期待に
開演前からテンションが上がる。
即販コーナーを見ると、なんと戸張氏の新作CDRが!
しかし、名前を見ると「戸張みゆき」?
「兄弟かだれかですか?」
「いえ、本人です。新録です」
即座に購入。盤面には本人のサイン入りだった!


やがて始まったLIVE、最初は
日本のアシッドフォークとして再評価されている
音羽信氏だ。
情景を喚起させる詩曲世界。
ギターを手にして初めて作った曲なども披露され
年輪の深さを思わせる。
しかし、古さは全く感じさせない。
良い音楽は皆、そうだ。
peri氏は後で「時間が経って熟成された曲は
それだけですごみがあるよね」と語っていた。


そして終了後、SEの流れる中、小振りの
クラシックギターを手にふらりと現れた戸張氏。
その風貌は坂本慎太郎のようでもあり
サングラスをかけていてルー・リードのようでもあった。
サウンドチェック中、なぜか同じ音を
執拗にトレモロ弾きしまくる。
そして、何かが降りてきてしまったのか、
SEが流れているのに「フォォーッ!!」と
意味を成さない言語で叫び出す戸張氏。
ぬおおお〜、本番前から既にただ者ではない!
バーブの深さを調整中、
PAが「声出してみてください」
「え?ああ、あ〜あ〜ウウ〜」
と喋りながらメロディを色々歌う戸張氏。
何だか分からないがそのやり取りがなごやかであり
またただ事のない感じで、会場に笑いが起こる。
戸張氏も喋りとメロディを交えながら「うへへ」と笑う。
天然のエンターテイメント性とも言おうか。
始まる前からヒートアップする。


そして曲は始まった。
最初の曲の途中、マイクが突然ハウり、
演奏をストップしてしまうトラブルがあるも、
その後は順調に進行。
オープンチューニングで激しくかきならし奏でられる
どこの国の音楽とも知れない、情熱的な曲たち。
そして何者かが憑衣したように、どこの国でもない言葉で
腹の底から叫ぶ歌。
それは凄まじく、とてもひとりで演奏してる厚みではない。


一体何が彼を叫ばせるのか、一体何が彼のモチベーションか
考えたが、あれは戸張大輔が叫んでいるようで
彼が叫んでいるわけではないのだと思った。
彼はシャーマンのように歌の精霊を呼び寄せて
歌わせているだけなのだ。
だから、彼の音楽からは不思議なまでに
自意識が一切感じられない。
随分スピリチュアルなことを言っているようだが、
実際、音楽というのは基本的にスピリチュアルなもの
じゃないだろうか。
音楽は集合的無意識のように宇宙のどこかにすでにあって、
作曲というのはそれを探り当てる作業だと思う。
だから、良い音楽というのは常にどこか懐かしく、
デジャヴを感じさせる節がある。
そんな音楽のプリミティヴ性に今、最も真っ正面から
向き合っているのが戸張大輔じゃないだろうか。


それにしても戸張大輔は予想以上に
エンターテイメント性のあるキャラクターだった。
MCで唐突に「今、33歳です」と言い出したり、
「遊ぶ金欲しさにCDを作ったので買って下さい」と言ったり。
演奏時間は35分位。あっと言う間に時間は過ぎた。
新作CDRに入っている「海の向こう、向こう。。。」

繰り返す曲には震えた。
戸張氏はイロモノと捉えられる節もあるとは思うが、
彼の作る歌モノは、実際のところ極めてキャッチーな
構造をしている。
しかもそこに打算を感じさせない。最高だ。


終了し、拍手は鳴りやまず。しかしアンコールはなし。
皆、握手しているので僕とperi君も便乗。
戸張氏の握手は温かくフニャッとしていた。
「すげえ体験をしちゃったねえ」と興奮さめやらず、
小腹減りつつ戸張氏を語りつつハイソな街を歩く。
気づくと結婚式二次会ライブ会場付近に到着。
前回はすでに閉まっていた北海道ラーメン「むつみ屋」。
北の恵みラーメン850円美味。瓶ビール呑。
「世界は不思議で一杯だってことに
オレは最近気づいちゃったね」と語りの入るperi氏。
曰く、目は球体だからゴミが入ってもどこかで
ちゃんと取れるし、耳や鼻があんな凹凸になっているから
眼鏡もかけれるし、マスクもつけられるじゃないかと。
現場でタイルをはつりながらそんなことを考えているという。
すばらしい。
オレはそんなこと意識できてなかったね。


バンドのフォーマットにとらわれていると
音楽本来の呪術的なプリミティブさを見失いがちだ。
音楽のフリーダムさ、美しさといった基本を
思い出させてくれる貴重なライブだった。
CDを聴く以上の衝撃だった。
またいつか戸張氏のライブを観れることを祈る。