人間失格。

juriano2011-08-15

映画版「人間失格」を観た。観てしまった。
原作レイプが甚だしく、怒りがこみ上げてきた。
太宰治と原作への冒涜だ。
中原中也やら壇一雄やら小林秀雄やらを勝手に登場させる
意図は一体何なのだろう。
何より、葉蔵の抱えている自殺に向かわせるほどの葛藤が
全く伝わってこない。
原作のスノッブな部分だけ抽出したという印象。


大学時代、「人間失格」はゼミの発表で論文も色々漁ったのだが
入りやすい反面、作者の真意が見えづらく、難解な作品だと感じた。
主人公・大庭葉蔵と太宰治を重ねる作家論的な読まれ方から
脱却できないのが問題で、
近年の純粋な作品論でも、大庭葉蔵の精神分析など
飛び道具的アプローチが多く、正直言ってこれはという
先行論文が皆無だったのを覚えている。
個人的に「人間失格」とは大庭葉蔵のことではなく、
何の葛藤もなく生きる人々に向けられた
太宰のぎりぎりの人間批判だったのじゃないか、と思う。
というかそこを一石投じたくて、
帰納法的に発表を組み立てようとしたのだが、
材料があまりにも足らず頓挫、発表をトンズラして
結論から言ってオレが人間失格だったのもいい思い出だ。


人間失格は、大庭葉蔵に読み手が自己投影してしまいがちで、
そこが作家の意図を見えづらくする罠であって、
だからこそ映画化は慎重にやってほしかった。
監督の勝手な思い入れで原作にない中原中也を登場させるなんて
もってのほかだ。
生田斗真という素材は決して悪くなかっただけに、
本当に勿体なかった。
余談だが、8月冒頭に取り壊しの始まった
日本最古の木造3階建下宿「本郷館」が登場したのがびっくりした。
あれはロケも現地でやったのだろうか。