日光旅行記〜2日目。

 12月31日(月)午前7時起床。寒かったせいか快眠とは言えず、寝起きが悪かった。朝に強い吉井氏は回復したらしく「朝風呂行ってくるわー」と言うので、便乗して一緒に行くことにする。とりあえず湯に浸かり多少目が覚めるも、ぼけぼけ。
 湯上がりのまま軽朝食。フロント前のスペースにバイキングが出現しており、パンやソーセージ、レタス等が並んでいた。食欲はなかったが、適当にトレーに載せる。

 それを別室の食堂に運んで食すのだ。食堂は意外に広々としていた。オレンジジュースを口にした吉井氏が「ふむ。これはなっちゃんかHi-C系だな」と分析している。特筆すべき点はないが、スープがコンソメでなくコーンスープである点が個人的にポイント高かった。ポットのコーヒーをラウンジに持っていって飲んだところで、ようやく目が覚めてきた。
 ガイド本等を見ながら今日の予定を相談する。昨日がハードであったので、今日は緩めで行きたいというのが基本路線。今、泊まっている場所は日光東照宮を擁する「日光の社寺」の目の前であり、順当に考えれば世界遺産たるこれを観光すべきだが、俺も吉井氏もこういった立派な寺社仏閣に対する興味が悲しいほどに薄い。しかし、ここまで来て日光東照宮もスルーしたら、後で何しに行ったの?という話にもなりかねないので、「行った」という既成事実を獲得すべく、冷やかすことにした。その後、ゆばそばを食した後に中禅寺湖に行き日帰り入浴、という予定を立てた。
 そうと決まれば長居しても仕方ないので、部屋に戻り、布団様を畳み、早々に出発することにする。爽やかなる陽気。まずは宿の眼前にある観光スポット「神橋」を見ることに。朱塗りの橋が河川に映え、全くポストカードのような景観だ。

 当然のように渡れるものと思ったのだが、なんと橋の上に行くだけで金を取るのである。その脇には通常利用できるコンクリートの橋があるので、神橋は橋としての機能を果たしていないオブジェである。貧乏旅行者の我々は当然金を払う気はせず、コンクリ橋から写真を撮るに留めた。
 のっけから何だかなーと思いつつ、入り口へ。「世界遺産 日光の社寺」と誇らしげに書いてある石碑を横目に見つつ、石段を上る。こういった社は、山の高いところに位置するのが常だ。相当歩くはめになるかと思ったが、身構えたほどではなかった。時間の早いせいか人もさほど多くなく、木々に囲まれのどかな気持ちになる。
 やがて輪王寺が見えてきたが、様子が変だ。大がかりな仮設の外観を、輪王寺と思しき絵がカムフラージュしている。

 全くもって下調べをしていないので初めて知ったが、現在平成の大改修を行っているらしい。中に入れば改修工事のもようを見学できるらしいが、ここでも有料だ。その対面にある日本庭園「逍遙園」も有料。何かいちいち金を取るので、我々は辟易してしまった。余計な出費を抑えたいので、スルーして先に進むことにした。
 重要文化財だという相輪塔を写真に収める。また有名な五重塔があったので、これも事務的に写真を撮る。

 日光東照宮の入り口まで来た。この奥に有名な眠り猫や、見ざる言わざる聞かざるの三猿がある訳だが、ここの入場料はなんと1300円も取るのだ。高い。悩んだ末、ばかげていると思い、その前にあった屋台で甘酒300円也を買い求め、それを呑んで一足先に初詣気分を味わうことにした。

 これらを全部参拝すると一体いくら掛かるのだろうか。外国人観光客も多く、外貨を稼ぐのは良いことだが、拝金主義と思われて悪印象を植え付けるのではないか。維持管理にお金が掛かるのは理解できるが…。いずれにせよ、我々には優しくない地だった。
 無料で巡れる境内はひと通り回ったが、昼食にはまだ早い。仕方ないのでどこか一カ所くらい有料の場所を見ることにする。じゃんけんで吉井氏が勝ったら二荒山神社、俺が勝ったら逍遙園に行くという民主的な方法によって、逍遙園に行くことになった。拝観料200円也を支払い、入場。飲んで清めて下さい的な水があったので柄杓から浮かして飲もうとするもうっかり口をつけてしまい、うげげと思う(年明け早々にウイルス性腸炎になったのは、まさかこの時のが原因ではないと思うが…)。
 逍遙園はよく手入れされた池が美しい日本庭園であった。

 何もないと言えばないので、客は他にほぼ皆無。庭をぐるりと一周。土壁の東屋があり、入りたいと思ったが入場禁止であった。ベンチに座りひと息つく。吉井氏が、上から物を言われるばかりの仕事はもううんざりだ、と言うので、手に職的な仕事で、職人然とすれば偉そうにしていられるのではないかという話をする。
 そんなことをしているうちに昼刻になったので辞去する。来た道を引き返し、先ほどの神橋まで戻る。渡っている人がいたので、うわーと思う。昼飯は、神橋近くの明治後期建築の建物に「ゆばそば」ののぼりが架かっていたので、まあここでいいよねということでフラリと入る。時刻はちょうど正午。店内は混雑しており、給仕のおばさん2名はこちらに一瞥もくれずバタバタしている。サービスが良いとは思えず、しまったこれは立地に甘えて営業しているダメな店か…と早速後悔するも、奥のテーブルに通されたので時すでに遅し。観念し、俺も吉井氏もゆばそば1050円也にする。店内を見渡すと、それでも著名人のサインがズラリ。この家屋は半分が土産物屋、半分が食堂となっているようだ。やがてゆばそばが来る。

 ゆばはロール状で甘辛く煮てあり、噛むとじゅわっと味が染み出してくる。しかし、特別美味かというと正直よくわからなかった。店で善し悪しが違うのかどうかも、判然とせず。それでも名物のゆばにありつけたことに満足する。
 吉井氏が「中禅寺どうする?一応通ったから様子はもう分かってるんだよね…」と逡巡し始めたので、温泉に入りたい俺は「否、折角だから行こうよ。華厳の滝もあるじゃない」とプッシュする。
 外に出てバスの時間をチェックすると、次は12時41分発だ。土産物屋を冷やかして時間を潰すことにする。いかにも80年代な感じのポップでキッチュなイラストの入った包装紙に目が留まり、これはあえてレトロを再現しているのか、自然に経年してしまったのか?というかなりどうでもいい議論をする。冷やかしも飽きたので外に出ると、鉄道の一部を生かしたような変な電話ボックスがあったので、中に入るとなま暖かかった。しばし吉井氏は瞑想していた。
 やがてバスが来た。混雑しており、韓国人の隣りに座る。韓国人は無遠慮にスナックをぼりぼりとイワしており、チーズ臭く不快であった。後ろの席もその連れらしい。さらに白人男性が途中で乗ってきて実にインターナショナルな車内だが、彼は満席で座れない。後部座席には補助席が付いているのだが、スムーズな降車を妨げるからであろうか、運転手が「補助席はまだ使わないで下さい」とアナウンスするが、言語が通じないので白人男性は何食わぬ様子で補助席を出して座った。
 そのうちほどなく中禅寺湖のバスターミナルに到着。昨日雪が降らなかったせいか、路面は凍結しており、スリップの危険度が増している。おまけに北風が吹いて、気持ちが挫けるレベルに寒い。華厳の滝に向かうと思しき集団に着いていくと、5分ほどで到着。着いてから知ったのだが、ここでも滝の目の前まで行くのに530円の有料エレベーターがあるのだ。寒いし、お金を使うのも嫌なので上から眺めるに留めることにした。一応展望台が設置されているのだ。

 それにしても風が凍てつくようで、寒い。凄い景色ではあるのだが、それを楽しめる余裕は正直ない。半ば形式的に写真を撮って退去する。
 早く温泉に浸かりたかったので、日光レークサイドホテルに足を滑らせながら急ぐ。ここの日帰り入浴は通常1000円であるが、「まるごと東武日光フリーパス」の所持者は半額の500円になるのだ。活用しない手はない。温泉はログハウス風の別館にあるらしく、そこまで仮設のような廊下を通って行くのだ。細長い通路が延々と延びており、何か恐山の本堂に至る通路を想起するのだった。別館の入り口に着いたが、受付に誰もいない。お金様を支払わなければならないので、素通りする訳にもいかずボケーと突っ立って待つ。すると後ろからカップルズがやってきて、あれ誰もいないねー、等と言っていてダルイので、上に上がって場所を空ける。そのうち受付の婆がやってきて「アレ?今来たんですよね」等と言うので、貴様がいなかったのではないかと思いつつ、500円也を支払う。脱衣所には籠しかなく、不用心に思えたので100円ロッカーに財布を納める。
 いざ入湯。湯は日光湯元と同様の緑がかった乳白色。硫黄泉だ。温泉は小西ホテルの湯に比べてぬるめで、個人的にはもう少しパンチが欲しかったが、濁り湯に2回入れたので申し分なかった。ログハウス風の天井の高いつくりで、雰囲気も良好。時間が早いせいか、けだるい空気の漂う室内。ゆっくりと浸かって満足して上がる。
 ドライヤーで髪を乾かし、休憩室的なスペースに行く。ガラス張りで中禅寺湖が望める雰囲気の良い空間。椅子が沢山あるのだが人は全然おらずガランとしており、そこに何故かうら若い美人の白人女性が独りでぽつんと座っており、非現実的であった。お前はロスト・イン・トランスレーションか、と突っ込みたくなるような空気を醸していた。

 それとはまるで関係なくアイスクリームの自販機(レディボーデン)に目が留まり、真冬にアイスという贅沢を敢行する。ソファに座りそれを食した後、テラスに出て一服。湯上がりに冷気が心地よい。白人女性がいつの間にかいなくなっていたので、吉井氏に問うと日本人彼氏と消えていったとのこと。
 バスの時間があるので我々も退去。しかし、その前に「まるごと東武日光フリーパス」のもう一つの特典である無料コーヒーを頂くべく、ロビーに行く。尋ねると、サーバーから勝手にセルフで飲めるようだ。広々としたテーブルに座り、置いてあった東武ワールドスクエアの本や皇室写真集などを眺めながらコーヒーを啜る。

 すっかり油断していたら、バスの時間が危うくなったのでダッシュでターミナルまで戻る。15時45分中禅寺湖発のバスにタッチの差で滑り込み、東武日光に向かう。車中ではやはりウトウトしたが、途中車窓を見ていた吉井氏が「猿だ!」と叫ぶので見ると親子連れと思しき猿が垣間見えた。写真には納められなかった。
 16時20分東武日光着。土産物屋を見ることにして、駅前をうろうろする。自宅用にゆば刺身とキュウリのみそ漬け530円也を購入したが、信号を挟んで向かいの店で同じものが30円安く売っているのを直後に発見してしまい、呻く。
 そんなことをしていたら、うっかり北千住まで直通で行ける快速電車を逃していた。次の電車が快速としては最終便だが、17時39分発まで1時間弱ある。吉井氏は憤り、「マジか!FUCK」と言っていたが、早く帰ったところで予定のない俺は「マアマア。ゆっくり帰れば良いではないですか」とこれをなだめ、喫茶店など物色。しかし混んでいたり禁煙であったりと、なかなかコーヒー一杯で粘れそうなイイ店がない。仕方ないのでガラ空きのインド料理屋に入り、飲み物だけでも良いか確認して落ち着く。他に客は皆無。コーヒーという感じの店でもないので、俺は生ビール、吉井氏はコーラを注文し、肴にもろきゅう300円也をつけた。空いたインド料理屋、妙に落ち着いて気持ちが和んだ。旅を振り返りつつ良い時間を過ごし、今度は時間に余裕を持って店を出る。
 17時39分発の電車は割合空いており、旅情溢れる4人掛けのボックス席に収まる。車中では北温泉旅行記の草稿を読まれ編集者に原稿チェックされる気分を味わったり、ビートルズバンドの課題曲であるrevolutionのギターの振り分けを相談したりした。
 19時53分北千住着。よいお年を、ってことで解散し、小腹が空いていたので駅の中に入っているカレー屋でカレー納めをし、帰宅後、爆睡。年越しの瞬間は、完全に眠りの中だった。