夏が終わる。

juriano2009-09-01

8月ももう終わり。
盆休み前、何をしてもつきぬけれない状況に
僕は静かに殺気立っていた。
何とかこの状態を打破せんければという
焦りにかられ救いを求めるように手にとった
ロバート・ハリス著「ワイルドサイドを歩け」が
今年の夏の気分の、基調になったような気がする。


ロバート氏はJ-WAVEのDJ/コメンテーターとして
知られている人だが
同著は、バリ島、オーストラリアをはじめ
20年近く放浪して生きてきた彼の生きざまを
柔らかな筆致で書かれたエッセイです。
読んでいるだけでタフな気持ちになり、
持っているだけで元気が出てくる。
「ワイルド・ウインター」並みに。
彼は、旅は「人生最高の快楽」だと言っている。
なぜなら「毎日が移動祝祭日だから」。
カッコイイ。
単純野郎である僕は、やはり旅に出たいと思った。
それも、異文化体験がしたいからアジアかなと思った。
ベトナム、インド、フィリピン・・・


ま、そこまで思いつけたのはよかったんだけど。
結局、お盆進行の忙しさにかまけてるうちに、
パスポートは取ってないわ、
半端に国内旅行にシフトして、旅行ガイドを
立ち読みとかしまくったけど、
異文化にぶちのめされたい、という動機からすると
所詮どこも観光地、同じようにしか見えず。
ニュースでは、東名高速道路崩落の影響で
新幹線も混雑してるだの、なんだのとやってる。
あ、もう面倒!と思い頓挫。ろくでもないなー。


結局都内をうろうろ。
青山のシアター・イメージフォーラム
何だか居心地がよく、連日通い、
上映中の「美代子阿佐ヶ谷気分
「精神」「花と兵隊」すべて観た。
いや、まあ全部面白かったけどね。


美代子阿佐ヶ谷気分」は安部慎一
原作マンガをかなり忠実に再現していた。
し過ぎていてちょっと芝居がかっていたけど。
美代子役の町田マリーがけだるいエロスを
放っていてよかった。
おっぱいが沢山観れてよかった。
(この作品はおっぱい大変重要なんです。
女性に甘ったれてないと駄目なやつの
話だから。そこは、ヒジョーに説得力があった)
どーしようもなくナルシストで甘ったれな性格が
よく描けていた。
そして悲しいかな、自分のアベシン的性格を
否が応にも見せつけられた。
サントラに、マヘル・シャラル・ハシュ・バズや
テニスコーツが使用されていてビックリしたけど
やや趣味的すぎる気がしましたね。
アベシンの息子がスパルタローカルズという
バンドのミュージシャンとは知らず、驚いた。


「精神」は、精神病というタブーに踏み込んだ
ドキュメンタリー映画
フラットな目線で「観察」に徹しており、
真摯な取材に好感が持てた。
舞台は外来の精神科クリニック「こらーる岡山」。
患者と先生のやりとり、患者へのインタビュー、
そのコミュニケーション、関係性を撮っている作品。
監督の目を通じて、観客は、精神病患者の抱える
心の闇を「理解」しようとし、やがて
健常者も精神病患者も地続きなのだと気づく。
そんな作品。
健常者と異常者を分け隔てているカーテンこそが
悪というか、隔離することで、
異質なものに思えてしまうということがある。
以前、文学部のゼミで、
「太宰とか安吾とかは、(精神的に)病気だから・・・」と
言っていたバカがいて、ぶん殴ってやろうかと
思ったことを思い出した。
じゃ、太宰は病気で、お前はふつうの人なの?と。
理解不能なものを目にすると、「病気」とか「異常」という
レッテルを貼り付けて、思考停止。
現代っこは皆そうだけど、文学を研究しようという
やつの態度か?と呆れ果てた覚えがある。
全ての物事には脈絡があるし、経緯もある。
人間の行動にはすべて理由がある。
だから本来、異常も健常もあったものじゃない。
精神病患者たちは、真摯に己の病と格闘している。
それに比べて、のうのうと生を垂れ流している
自分たちのほうがむしろロクでもないんじゃないか?
そんなことを考えさせられる。


「花と兵隊」は戦争というリアリズムを題材にしながら
不思議なまでにロマンスをはらんだ、美しい作品。
タイ・ビルマ国境付近で終戦を迎えた後、
祖国へ帰らずに現地に根を張った
「未帰還兵」たちを取材した映画。
なぜ、彼らは日本に帰らなかったか?
彼らは、軍隊で培った技術を生かし、
ある者は医療技術を、ある者は農業用のポンプ施設を
残して生活した。
彼らは現地の女性と結婚し、新たな家族を作った。
新婚当時の彼女たちの可憐な写真。
穏やかに老後を迎える元兵士たちの平和な日常。
そんな中語られる、血にまみれた戦争の記憶と、
祖国へ対する愛憎入り乱れた想い。


監督の松林要樹氏は、撮影当時まだ20代。
片や、90歳前後の老人。
なんというか僕自身、80歳近いご老人に
インタビューを行う機会が多いため、
作品を離れてシンパシーを感じる部分が多かった。
僕がいつもそういう取材をして感じるのは、
人間ひとりが抱えている情報量というのは
宇宙より膨大なのではないかということ。
そして、それは、語られる機会がなければ
誰にも知られずに、ひっそりと失われてしまうのだ。
その無力感。
だから、ご老人の話というのは貴重なのだ。
人は年を食うと、やはり後の世代に自らが
人生の中で得たノウハウ、知見を
伝えたいと思うから、乗せさえすれば
若者よりおしゃべりだし、
それを話していること自体が楽しいのだ。
若者は年寄りの話を聞くべきだ。
この映画でも、そんな、若者と老人の
親密な空気が伝わってくる気がした。


その一方、彼らが戦争に駆り出されたのも
今の監督とほぼ同世代のとき。
いかに若者が戦地に駆り出された戦争であったか。
そして、恋愛という裏テーマ。
新婚当初の写真、そして老いた現在のふたり。
限られた情報ながら、描かれていないはずの映像が
目に浮かぶのが不思議だ。
そこにこの映画のロマンスがある。
この映画を観終わったあとの率直な感想は
「あんな暖かい家庭をもちたい」という感じだ。
壮大なモチーフを背負ってはいるが
実はご老人たちのおノロケ映画なのかもしれません。
いや、壮絶で苛酷な体験を共有しているからこそ、
そのピュアラブは、この上なく美しいんです。多分。


以上、遂に買ってしまったデジタルメモ「ポメラ」で
調子に乗ってがっつり書いてしまったが、(楽しい!!)
書こうとしていることが溜まりすぎていることを
悟ったので、続きはまた今度。アデュー。