東北旅行記3日目。〜遠野−仙台篇〜

■レンタサイクルを借りる

 8月13日(火)午前6時30分起床。快眠。
 速攻で朝風呂に行き、血行促進した後、朝食。焼き魚、山菜などで身構えていたほどハードボリュームでなく安心。厨房から「あまちゃん」のテーマソングが聴こえてきて、ああ東北の人も観ているのだなと思った。
 レンタサイクルの受付は8時からであり、悠長にしていられない。速やかにチェックアウトして、観光案内所に向かう。
 コインロッカーにカバンをinして、受付の女性にお勧めのコースを尋ねる。「普通はカッパ渕や伝承園(いずれも駅から5km)、体力に自信のある方なら、遠野ふるさと村(駅から12km)まで行かれる方もいます」とのことで、地図に丸をつけてもらう。
 どっちみちカッパ渕と伝承園は行くつもりだったが、その先は特に考えていなかった。とりあえずカッパ渕を目指すことにする。自転車様のサドルを調整し、8時15分イザ出発。
 田園風景の中を颯爽と駆け抜ける。なかなか良い感じだ。地味にアップダウンがあり、ガーッと立ち漕ぎをして、のんびり走っている地元系青年を追い抜く。
 キノコダッシュで息が切れ、若干後悔しつつスピードを落としていると、カッパ渕の案内板が見えた。「カッパ出没注意」というオイシイ看板を横目に見たが、写真を撮り損ねてしまった。

■カッパ渕

 田んぼのあぜ道に会田誠作品を思ったりしていると、ふと奇妙な人形群が現れ、思わず固まった。その対面がカッパ渕の入り口らしい。20分強で着いてしまった。


 しかし、この悪趣味な人形群のインパクトがあまりに凄まじく、そもそもカッパ渕と関係があるのか、只の私有地なのか一切がミステリーなのだが、あまりに強力なのでひと通り写真を撮らせてもらう。ついでに、この先自転車が侵入できないようなので、一旦置かせてもらう。
 カッパ渕は割合小さな沢であった。不気味さは感じられず、むしろ木陰が気持ちの良い癒しスポットだ。観光客もまばらにはいたが、静か。

 小さな祠があり、その前にある河童像は二体ともメス河童であり、子河童に乳を与えているのもいる。説明板によると、河童信仰が乳の信仰に転化しているのだそうで、民間信仰は奥が深い。祠の中がお供え物(?)でカオスなことになっているので、写真に撮る。
 割と新しめの木造の橋を渡ると、その奥が既に伝承園のようだった。プチ納涼を楽しめたが、これ以上見るべきものもなさそうなので、引き返し、自転車をピックアップして伝承園に向かう。

■伝承園

 ほどなく到着して、自転車を置いて入り口へ。「おはようございます」とにこやかに挨拶され、爽やかな気持ちになる。入り口脇のショップでミネラルウォーター様を購入し、喉を鳴らして飲む。
 入場料を支払うと、「カッパのお皿」をご自由にお使い下さい、とのこと。何のことかと思ったら、麦藁帽子にカッパの意匠を加味したファンキーな被りものであった。ネズミーランドのカッパ版のようなものだが、日除けも兼ねて実用的である。連れがいれば嬉々として装着するのだが、さすがに独りで楽しめる気がせず、素通りする。

 伝承園では、岩手県特有の馬小屋と生活空間が一緒になっている建築様式「南部曲り屋」を公開している。こういう建物の内部に入れるのは実に面白く、VTRを割と真剣に見て勉強した。曲がった木を梁に使うダイナミズムは、むしろモダンな感覚に思える。養蚕も盛んであったようで、繭玉を作る機械なども展示していた。内部は薄暗くひんやりとして、土壁の調湿効果か居心地は良かったが、冬は寒いだろうと想像される。
 靴を脱ぎ内部を散策する。一番奥には木彫りの人形に願掛けを書いた色とりどりの服を着せた「オシラサマ」を飾った部屋があり、美しくも禍々しい空間であった。

 「オシラサマ」とは馬と夫婦になってしまった娘に父親が腹を立て、その馬の首を木に吊って殺したところ、馬と娘が天に昇っていったという伝説で、以来その木で人形をつくり願掛けをする民俗信仰が始まったのだそうな。それを再現した写真が展示されており、妙にリアリズムな感覚で良かった。
 曲り家以外にも、当時使用されていた風呂、水車小屋などが見れて、アミューズメント精神があり楽しめた。
 柳田國男に遠野の民俗伝承を伝えた遠野出身の名士、佐々木喜善を紹介した空間もあり、見学した。
 ショップでカッパグッズを買うか迷ったけれど、品ぞろえは駅前の観光案内所ともだいぶ重複していたので、買うのはひとまずよした。

■たかむろ水光園

 未だ10時30分くらいで、時間にだいぶ余裕がある。お昼は伝承園併設の食堂で食べようと思っていたが、流石に早いのでどうしようかと思い、地図を広げる。
 駅より12kmの遠野ふるさと村にするかと思ったが、見るとたかむろ水光園(駅から7km)というところに入浴マークが。ここは公共の宿でもあり、トロン温泉なるものがあるらしい。日差しのきつい中自転車を漕いで汗ばんでいた身には大変魅力的で、ひと汗流すことに決めた。
テンションが上がり、猛烈にチャリを漕ぐ。距離は大したことないのだが、「急な上り坂」と書いてある通り、途中から心臓破りの坂状態になり、流石に漕げず、降りて手で押していく。適当に捨てていくことも考えたが、中腹まで行くと「水光園第二駐車場」というのがあったので、そこに置かせてもらう。入り口は坂の大分上のほうにあった。
 地元系夏休みアルバイトJKが「310円になります」と言うので、「入浴の場合はまたフロントで言うの?」と尋ねると「あ、入浴の方は入園料要らないのです」ということで入れた。入浴料525円也を払い、いざ内部へ。入浴でホテルの館内に忍び込むのは、宿泊者の気分を味わえてちょっと得だなと思う。経年具合がちょうど良い、なかなか立派な宿であった。
 階段を降りて行くと、大浴場のかなり広々とした休憩室。実に良い感じだ。脱衣所に入り、ふとロッカーの鍵が「302」で、ホテルきくゆうの部屋番号と同じであると気づき、またもシンクロニシティにひやりとする。何者かの意思を感じる。
 浴室に入ると、広々として綺麗で明るく、素晴らしい。汗を流して、湯に漬かる。いわゆる温泉ではないが、人もまばらで、午前中から風呂に入る背徳感を堪能する。低温のミストサウナなど入り、大変贅沢な気分。来て良かった。

 風呂から上がり、瓶の珈琲牛乳を買い、それを飲む。良い気分で館内散策。奥のロビーに灰皿を見つけ、一服。その後、一万円を崩したいなと思い、「遠野物語」の文庫とカッパ君ストラップを購入。後、たかむろ水光園の園内を散策。綺麗に整備された庭園で、釣り堀があり、家族連れがアウトドアな遊びに興じていた。それを横目に見つつ、昔ながらの農具の展示された蔵などを見た。

 この時点で、昨日充電し忘れたデジカメのバッテリーが怪しく、騙し騙し使っていたが、とうとうレンズを収納する動作の途中で切れてしまい、レンズ剥き出しのまま動かなくなってしまった。昔の携帯でやったように、バッテリーを取り出しズボンで擦り発電する儀式を試したが、まるで効果なし。
 やむなく携帯でパシャパシャ撮影していたが、心細くなり、そろそろ辞去することにする。
 裏口から出ると、目の前が自転車を置いた駐車場であった。ブレーキが利くことを確認してから、行きに難儀した坂を一気に駆け降りる爽快感。刹那、風になり、伝承園に引き返した。

■伝承園食堂でお昼
 伝承園食堂は家族連れ等でかなり賑わっており、ちょっと待たされた後、テーブルに案内された(お座敷)。チョイスしたのは、冷やしなめこそばと「ひっつみ」、ご飯がセットになった伝承園定食750円也。「ひっつみ」とは岩手県の郷土料理で、小麦粉を固めたものをちぎって団子状にしたもので汁と一緒に戴く。いかにも田舎料理という素朴な味で、安心して食べられた。外人女性2人組というのも居て、随分ディープなところに来るんだなと思い、感心した。
 一息つき、そろそろ引き返すことにする。帰りは行きに比べて大分長く感じられた。途中、レンタサイクルに乗った初老男性がすれ違いざまに「伝承園というのはこっち?」と聞くので「まだ結構ありますよ!」と教える。
 駅にほど近い大通り沿いに、行きには気づかなかった、古本・漫画・DVDみたいな店を発見し、久々に見た俗世の文化の香りに嬉しくなり、入店してみる。コミック、エロDVD、ジョークグッズなどが適当に配置された実に雑な店で、何かこういう地方のしょうもない店が妙に好きだ。一瞬癒されて、お暇する。
 レンタサイクルを返却し、お会計。着いたのは13時42分だが、13時15分に繰り下げてもらい、5時間分の10%引きで720円であった。

■遠野駅周辺の施設
 15時14分発の電車には未だ余裕があり、昨日夜に散歩で行った資料館に行ってみることにする。
 公園で地元キッズがサッカーに興じている脇を通って、遠野蔵の道ギャラリー。入場無料。「遠野物語」を絵で説明した作品の小さな展示をやっていた。どちらかというと内向きのギャラリーのようで、ざっと見て出る。
 次に、やはり入場無料の「遠野まちなかギャラリー」へ。入り口に座した初老男性が「どうぞご自由に見ていって下さい」と言う。色んな漫画家が描いた河童や遠野にまつわるイラストが展示されていた。これも一通り流し見て、本格的な観光スポットと思しき「とおの物語の館」に行く。
 入場料500円を払うと、受付のオバチャンに、この券で遠野城下町資料館も入れる旨、また向かいの「遠野座」でちょうど語り部のステージが始まったところなので、そちらを先に観に行くと良いとアドバイスされたが、残念ながらどちらも見て回る時間がなさそうだ。
 オバチャンの助言に逆らい、先に柳田國男展示館に行く。柳田國男が滞在したという旧高善旅館を移築復元しており、展示スペースとして活用されている。この建物内部が大変面白く、デジカメのバッテリー切れを惜しみつつ、携帯でパシャパシャと撮る。見学者は他に誰も居らず、柳田國男の生涯を紹介したVTRを一人で占有して観る。
 そんなことをしていたら本格的に時間がなくなり、旧柳田國男隠居所(世田谷区成城から移築)も諦め、「昔話蔵」へ。ここは切り絵やイラスト、映像を駆使して遠野物語の世界を体感できる、最もアミューズメントに富んだ施設で、影絵が動くギミックなどに子どもたちがはしゃいでいた。俺もはしゃぎたかったが、時間がなく、もっとゆっくりしたいなと思いつつ、急ぎ足で素通りする。「赤羽根蔵」の充実したお土産コーナーをじっくりと見て、結局何も買わずに出る。
 早足で観光案内所に戻り、ロッカーの荷物を取り出し、トイレのコンセントに15秒ほどデジカメのバッテリーを挿し、ようやくR10のレンズが引っ込んだ。
 気を取り直して観光案内所の土産コーナーを物色。家族連れが騒ぎながら空間を占有しており、嫌だなと思う。散々迷った末、カッパストラップ3個セット(震災復興のてるてる坊主仕様)と、カッパ君手ぬぐいにした。
 一旦外に出たが、入り口脇にあった遠野限定水木しげるピンバッジのガチャガチャ(200円)が大変気になり、1回だけやることにする。パンフレットに描いてあった『遠野物語』100周年キャラクター「かたる君」(c水木プロ)が当たり、ヨッシャと思う。

■仙台に向かう
 駅に向かい、2個目の18きっぷ捺印を貰い、ホームへ。ほどなくして来た15時14分発快速はまゆりに乗って、花巻16時6分着。
 次の16時43分発までまた時間があり、前日に引き続きスイーツショップ風彩でソフトを食すことにする。最早、花巻は俺にとってソフトの街である。今回は宇治抹茶とバニラのミックス250円にした。それを男らしくペロペロしつつ、カウンター隅の座席を確保し、目ざとくコンセント穴を発見し、拝借してR10のバッテリーを稼ぐ。自分も少し旅にスレてきたなと思う。地元中高生で混雑してきたので速やかに辞去し、一服してホームへ。
 16時43分発花巻行に難なく乗り、17時37分一ノ関着。各駅停車の旅は、途中の中継駅がいちいち穴場スポットに見えてくるが、一ノ関も良さそうに思えた。一旦外に出て一服し、17時55分一ノ関発。
 ここの区間は長くてしんどかったが、逆転裁判を遊ぶ気分でもなく、旅のメモなどをつけていた。

■夜の仙台到達

 19時33分、とうとう仙台駅に到達。つい先ほどまで居た遠野とのギャップが激しく、予想以上に栄えており、ついヘラヘラしてしまう。PARCOなんかあるし。毎日景色がコロコロと変化するのが、こういう旅の醍醐味だなと実感する。久々に見たような気のするネオンをおのぼりさん気分で眺め、俺は都会も嫌いではないのだなと思う。
 街とは言っても夜は気温が低いのが有難く、良い気分で予約した「ホテルメイフラワー仙台」を目指す。途中、ブックオフを発見し、後で来ようと思う。
 また、ホテルの近くに牛タン屋「利久」を発見した。先ほど車内でガイド本を見て、地元客に人気の店らしいので行こうと思っていたのだが、ガイド本に載っていたのは駅を挟んで反対側にある店舗だった。どうやら市内に店舗が複数あるようだ。後で来ようと思い、ひとまずチェックイン。
 ビジネスホテル然としており、とりあえず清潔だ。10階の111号室を通される。部屋もそれなりに綺麗。荷物を分け、早速牛タンを食べに行くことにする。
 利久に着くと、何組か並んでいた。3人連れの地元系家族の傍若無人ぶりが半端なく、並び客用のお茶ポットをクソガキが玩具にしており、紙コップを触ったり舐めたりした挙句、戻したりしている。これが仙台クオリティかなと思い、ウンザリする。
 回転は極めて鈍く、30分ほど待たされてようやく入店できた。牛タン定食と迷った挙句、牛タンカレー定食大盛りにした。結局、半分は飲み屋であるために回転が遅いことを理解した。

 最初に牛タン載せのシーザーサラダが来た。合うかどうかは別にして、サラダは美味で、牛タンはザ・牛タンという歯応えで嬉しい。そして、牛タンカレー。トロトロに煮込まれた牛タンと、かなり深みのある洋風カレー。ここまで煮込まれると、最早牛タンなのか良く判らないが、通いたくなるのも納得の旨さだった。来て正解だった。
 食していると、吉井氏から20時半、「あともうちょっとでつきそうーもう夕飯食べました?つかれたー」とメールが来る。テンション上がり、合流するか聞くと、バッテリーが切れそうなので一旦ホテルに向かうとの旨。キュア国分町という、駅から徒歩20分のカプセルホテルだという。どうせ時間もあるし、夜の仙台を散策しつつそこまで歩いてみようと思い、会計し外に出る。
 とりあえず先ほどのブックオフへ向かう。地方の古本屋には思わぬ掘り出し物があるのでは、という淡い期待を込めて。商業ビルの上の方の階にあり、ブックオフ以外のフロアは既にクローズであった。
 結果から言うとだいぶ不毛であった。やはりAmazonや背どりアプリが普及してから相場が全国で安定してしまい、CD屋も没個性になってしまった気がする。CD屋を巡る楽しみが減り、却って客足を遠ざけているのではないか。品揃えで個性を出している個人店はともかく、量販店は最早存在意義がないのでは…とガッカリして辞去。
 キュア国分町の位置を検索して、何となく歩いていく。仙台は栄えているが、全体的に東京より道幅が広くて好印象。21時回っているのに人手が多く、夏休みのせいもあるのだろうが、驚く。アーケードのある通りを歩いていく。ドトールやら漫画喫茶やら、東京と変わらないチェーンが軒を連ねる。歩いてみて、キュア国分町は物理的にかなり距離があることを理解した。それでもナチュラルハイ状態で歩を進める。
 それまで小奇麗な街だと思っていたのだが、地図の場所に近づくにつれて段々いかがわしい感じになり、人の密度も増し、風俗店等が目立ち始め、歌舞伎町の様相を呈していく。国分町とは、かなり有名な歓楽街らしい。
 客引きを避けるべく、大通りに迂回し、目印にしていた病院が見えたので、吉井氏に電話。至近距離のはずなのだが、キュア国分町なかなか見つからず、しばらく迷った後でようやく吉井氏を発見。

■吉井氏と合流
 久々に再会したような気がしつつ、「スゲーところに泊まってるねー」と話す。ホテルの正面には無料案内所がある。「何かムラムラしてきちゃったよー」と危険なテンションの吉井氏だったが、残金1万円などというので、流石に食い止め、とりあえず夕飯に付き合う。
 牛タン屋を探すも目ぼしい店が見つからず、また客引きもしつこいので、「ここでいいや、清潔そうだし」ということで適当な中華屋に入る。吉井氏は坦々面、俺は餃子を取ってビールで乾杯。
 単独行動していた間のお互いの旅の話などをする。十和田湖のホテルのバイキングがひどかったこと、奥入瀬をあまりゆっくり見られなかったことなどを聞く。「遠野一緒に行けばよかったよ」と言っていたが、十和田湖の夜の散歩で見た星空は最高だったそうだ。
 早くも旅の反省モードになってきたので、「まだ明日あるからね」と言うと、「俺は正直仙台期待してない」とニヒリズムなことを言う吉井氏。
 とにかく明日9時に仙台駅で落ち合うことにして、キュア国分町の前まで見送って、解散。俺もホテルに戻ることにしたが、行きと違ってやたら距離が長く思える。地図を片手に歩いたが、通りを2、3回間違えたりして、結局ホテルに戻れたのは23時半頃になってしまった。
 変な汗をかいてすっかり酒も抜けたので、サウナつき浴場に行くことにする。薄暗く、雰囲気が良いとは言い難い浴場。サウナのつくりも全体的に粗く、内側のドアの取っ手がクソ熱く、素材くらいもっと考えれば良いのに、と思った。落ち着けず、早々に出る。
 部屋に戻り、本日は350mlの缶ビールを干し、眠った。