東北旅行記4日目。〜仙台篇〜

瑞鳳殿
 8月14日(水)7時30分頃まで寝てしまう。何はともあれ朝風呂にさっと入り身支度。モーニングは1階ロビー脇のスペースにパンやドリンクのバイキングがあるのだが、学生が溜まっており、片身狭し。しかも玉子売り切れ。オレンジジュースとバターロールを一個ひっつかみ、部屋に持っていき、貧相な朝食。オレンジジュースが水っぽく、吐きそうになる。パンを胃に突っ込んで、吉井氏に15分遅れる旨をメールして、慌ただしくチェックアウト。観光案内所前で吉井氏と落ち合う。
 300円ロッカーに二人分の荷物を預け、まずは市内を循環しているバス「るーぷる仙台」の一日乗車券をゲットしたい。観光案内所で尋ねると、バス乗り場で購入できるとのこと。るーぷる一日乗車券600円也。確認すると一方向にしか走っておらず、先に瑞鳳殿に行くことにする。
 宮城県美術館以外特に気になるところもなかったのだが、一応定番の観光スポットを押さえようという判断。しかし、俺も吉井氏も致命的に歴史に興味がないのであった。バス停付近には川もあるようなので、最悪川遊びでも良いかなどと思う。

 るーぷる仙台は内装が大正レトロな雰囲気でなかなか素敵であったが、いかんせん混雑していた。近県から来た観光客なのか、地元民なのかは判然としない。瑞鳳殿はやはり人気スポットであるらしく、わらわらと降車した。
 緑の中にある佇まいに、「鎌倉みたいだね」という吉井氏。結構な勾配のある坂道を上っていき、旅の疲れが来ている足に響く。
 じわり暑く、汗が滲む。ふと、瑞鳳殿脇にラドン温泉「天龍閣」の看板を発見する。瑞鳳殿を見たら一汗流そうぜ、とテンションが上がり、さくっと見てしまおうということになる。

 伊達正宗公を祀った霊廟なのだが、悲しいまでに興味が湧かない。カラフルで豪奢なつくりに半ば毒づきつつ、恐山の慎み深さを懐かしく思ったりした。意匠が似ているので、「ここさっきも来たよ!」と叫ぶ吉井氏。そろそろ限界である。定番スポット、未熟者の我々には無用の地だった。

■宿の子どもに絡まれる
 さっさとラドンに行くことにする。路地に入って間もなく、割と経年しこじんまりとした旅館が現れた。最早慣れた体でフロントに入浴のみと告げ、530円を支払い、奥の浴場に行く。
 客は我々のみだった。浴室は期待していたより小さく、普通の銭湯風で、こじんまりとした浴槽2つ。ラドン蒸気を逃がさないためか、密閉された空間で、ラドンはなかなか熱い湯だった。放射能を浴びすぎるのも怖いので、長湯はせずさっと浴びる。脱衣所に戻ると、中年男性と子どもがおり、「一人でお風呂入ってられるよな?」と言って子どもを放置して行ってしまうので何となく不憫に思った。
 風呂上がりに瓶牛乳が欲しかったが、ないので自販機のミルクコーヒー缶で妥協する。なかなか具合は良かった。仕切られた喫煙スペースで一服していると、先刻の子どもが上がってきて、一人で待合室の地球儀を転がしている。「日本はー」などと言って探しているので、「日本はこれだよ」と言って教えてあげる。「この地球儀おかしい!房総半島ないじゃん」と千葉出身の吉井氏がつっこむ。

 「にゃんこ大戦争だとね・・・」と子どもが謎発言をするので、それなに?と聞くと、クラスで流行っているスマホのアプリなのだという。「にゃんこ大戦争も知らないの?ダセー」みたいなことを言うので、では吉井氏のスマホに入れようということになったが、検索しても出てこず、アンドロイド用なんじゃないのかというオチに。
 「じゃあさすがにパズドラは知っているでしょう?」という話になり、「パズドラ、一回落としたけどつまらないから消した」と言う吉井氏。何かもはや問答無用でスマホを奪われ、パズドラをインストールさせられる。先刻のフロントのおばちゃんが出てきて、「あらあら、お客さんに遊んでもらってェ〜」とニヤニヤしている。
 この子は旅館のオーナーの孫なのだという。名前はタイキ。「タイキは年いくつ?」と聞くと9才だという。小3。さっき一緒にいたのがパパかと聞くと、おじいちゃんだという。それにしては明らかに若すぎたので、「タイキのパパは年いくつ?」と聞くと25才だというので、流石にショックを受ける。でも授業参観の時いいじゃん、一番若いんじゃない、などと他愛もない話をしているうちに、パズドラをどんどん進めるタイキ。
 「これ最初が長いから嫌なんだよ、お兄ちゃんたち帰れなくなっちゃうよ!」と叫ぶ吉井氏。「タイキならすぐだよ。レアガチャ1回だけやらせて」と言い張り、スマホを返そうとしない。慣れた動作で連鎖させるタイキに、「それ適当にやっているでしょ」と吉井氏がつっこむと、「違うよ!」とムキになるのが面白い。
 時間はどんどん過ぎていき、気づけば12時を回っている。一向にスマホを返してくれないので、「お兄ちゃんたち、今日東京に帰らないといけないんだ。新幹線が間に合わないよ」と話すも、「スマホもらった」とか言うので、「お前チンコもむぞ!」と言ってチンコもむ吉井氏。子どもの扱いに慣れているなーと感心する(アイツ、ノリがいいからいけると思った、と後で言っていた)。
 ようやくスマホが戻ってきた。「おじいちゃんどこに行ったんだ?いつ戻ってくるの?」と聞いても「わかんない」と言うので可哀想になるが、旅程も崩れてきたので行くことにする。
 「タイキと友達になっちゃったね」というので、ちょっとキュンとする。「じゃあねタイキ、バイバイ」と言って別れる。「また遊ぼうねー」と言うので、もう確実に会えないのに無邪気だなと想い、切なくなる。
 「この旅で一番濃い交流をしちゃったじゃん」と言いながら坂を下っていると、後方から来た車の窓から、追い抜きざまにタイキが手を振っている。運転しているのは先刻のおじいちゃん。
 「結局、アイツいい感じに時間潰せたんだ。やられたな」と笑い合った。

宮城県美術館
 お昼を食べる場所を探す。バス停付近を物色するもめぼしい店がなく、美術館に行ってから探すかと話していると、バス停前にあった柿の葉寿司というのに吉井氏の目が留まり、試しに6個入りを購入して分けることにする。

 バス内は混雑していたが、奥の座席を運良く確保し、駅弁ならぬバス弁とすることにする。柿の葉に包まれたさば寿司で、予想以上に美味だった。もっと買えば良かった。
 程なく到着し、美術館に向かう(あまり人が降りないので衝撃だった)。しっかりした造りの、堅実な美術館という印象。入館料を支払い、ひとまず常設展を攻めることに。

 仙台市出身の作家、菅野聖子の作品展示があった。数学をアートに取り入れており、ミニマリズムかつアノニマスで、ニューウェーブを先取りしたような印象だったが、今の時代に響くかというとやや疑問だった。
 その後、目当てにしていたクレーやカンディンスキーの作品も一応少しはあったのだが、圧倒的に少なく、大半は地元画家の作品なので少し騙された気分になった。「前半は良かったんだけどねェ・・・」と言う吉井氏。
 企画展の日本画を流し見た後、本館西隣に併設された佐藤忠良記念館に行く。佐藤忠良は裸婦などひたすら人物像を彫刻している作家で、かなりの点数を常設している。
 作品の周囲を周ってアングルによって変化する見え方を楽しむというのを覚えてから、彫刻を観るのが少し楽しくなってきた。写真を撮る快感に近い何かを感じる。しかし吉井氏は彫刻をあまり好きではないようで、さくさく行ってしまう。「コレ、つくるならずっとモチーフを見ていないとできないよね」と言う吉井氏。粘土細工でも良いので、立体をいつかやってみようかなと思う。
 あと、外部にある彫刻の庭というのを観る。だいぶ気の触れたようなシュール作品が広々と展示されており、これは都心ではできないよねと話す。日差しが刺すように暑く、水をガブガブと飲む。

 一通り観てしまい、レストランを覗くも、予想はしていたが中途半端に高く、また土地の料理など望めないので、もう完全に昼刻を過ぎて空腹ではあったが、諦めて帰ることにする。結局、宮城県美術館も期待値を上回ることはなかった。

■牛タンを求めて
 バスに乗って仙台駅に引き返す。吉井氏が未だ牛タンを食べていなかったので、最後に牛タンを食そうということで、仙台駅手前のバス停で下車し、昨日夜通ったようなアーケード街を物色する。嫌な予感はしていたが、既に14時を回っているため、ランチが終了し休憩に入っている店が多い。
 アーケードの中に、昨日入った利久の別店舗を発見。一体何店舗あるのだ?しかもまた行列。何となく並んでみるも、回転が極めて悪いので諦める。
 駅に近づいていくと、利久とは別の牛タンチェーンを発見。並んでいる数もさほどではないので、これはいけるか?と思い、名前を書いて15分ほど待つ。結局無理!と判断し、おみやげを見る時間がなくなるので諦め、駅に急ぐ。
 すると、駅弁コーナーに牛タン弁当があったので、吉井氏は「これだ!」と喜び勇んで購入した。俺は牛タンは昨日食べたので、青森で食えなかったウニ丼弁当を購入した。

 土産コーナーを2、30分物色し、諸々を購入し、ロッカーよりカバンを取り出し、ホームへと向かう。ホームはサッカーの日本サポーターで溢れていた。

■帰途
 16時2分発快速シティラビットに無事乗れる。後は帰るだけだが、ここからがまだ長い。席をゲットできたので、食えるうちに食ってしまおうということで、早速駅弁タイム。吉井氏の弁当は、紐を引っ張るとご飯が温まるという近代技術が駆使されていた。説明書きを見ながら紐を引っ張る吉井氏。
 もそもそとウニ丼を食っていると、隣りで「熱っ!」と叫ぶ吉井氏。見ると、モクモクと白い湯気が立ち上り、危険物の様相を呈している弁当様。テンパる吉井氏。予想以上の破壊力により、値札の部分も真っ黒に焦げていた。
 「なんなんだよコレ!」と言いながら蓋を開けると、しかしご飯はかなりよい感じにフックラ炊き立てテイストで、吉井氏は感動していた。はた迷惑なギミックではある。ちなみにウニ丼は、肝心のウニがぱさぱさに乾燥しており、正直微妙な代物だった。

 昼だか夜だか分からない飯も食ってしまい、先は長い。先ほどタイキにダウンロードさせられたパズドラをやる吉井氏。脇で何となくそれを見つつ、土産の遠野「かたる君」ピンバッジを自慢する。3連のかっぱ君てるてる坊主を一個あげた。モモちゃんにお土産買うの忘れた、とぼやく吉井氏。
 17時16分福島着。東北本線に乗り換え。席座れないと思いきや、はじっこの車両に行ったら座れたのでラッキー。しかし席を確保しようとすると、数分の接続では煙草も吸えず、飲み物も買えず、なかなかシビアだなと感じた。
 17時24分福島発。逆転裁判やろうかと思うも、吉井氏がいるのにあまりインナースペースに入ってもな、と思い結局旅の反省をしつつ、べらべらと喋る。
 「フジフェスは行けなかったけど、恐山のほうがよっぽどロックだと思うよ」と吉井氏が言い、何か妙に納得する。ロックは世俗にまみれた聴き手の歪んだ価値観を矯正してくれる面があると思うので、恐山の体現しているものも近いような気がする。「骨があるということではないか」と言う結論に至る。
 この先の音楽との付き合い方など、割合シリアスな話をする。吉井氏に、「瓜生氏は音楽より文章のほうが向いていると思う。小説書いて下さい」と言うので、半分その気になる。小説書くとしたらどんなのを書きたいか聞くので、ファンタジーではなくて、現実にあったことを素材に書くのが向いているような気がする、と答える。
 出発前に買った18切符の旅全国地図を見ながら、「次はどこに行こうかな」と夢想する。「こういう旅を一ヶ月くらい続けていたいよ」と話す。雑談をしていると、時間が経つのが早い。19時23分黒磯着。
 黒磯、穴場なんじゃない?とか言いながら接続して、19時31分黒磯発。座れた。その後も我々は基本的に喋っていた。
 20時21分宇都宮着。最後の最後で、乗り換えが3分しかないという最難関。乗客が一斉にダッシュするのが面白い。我々と同じ18切符の旅行者も多数いると思われる。波に乗って無事接続成功。
 20時24分宇都宮発。各駅停車の旅は地続きを実感できて面白い。徐々に見覚えのある駅名が現れる。旅の終わりを実感する。
 22時8分上野着。小腹が空いていた我々は、締めに構内の蕎麦屋に行った。かけそばとミニかき揚げ丼セット。

 俺は京成線に乗り換えるので、吉井氏とはここでお別れ。「じゃあね」ってことで現実に戻った。
 遠方からの帰りは、無駄に深夜の上野公園を通過するのが好きで、人気のない上野公園の闇に紛れた。


 以上で3泊4日の旅は終了。アップダウンはあったが、それも含めて旅らしく、また天候に恵まれて良かった。吉井氏とも話していたが、間違いなく恐山がハイライトであったため、この旅程は逆の方が良かったと思われる。徐々に現実から遠ざかって、最終的に極楽に至るコースをまたいつか辿ってみたい。

おまけ:青春18きっぷ秋葉原のチケットショップで
残り4回のを10000円で購入した。
1回残ったので翌日、同じ店で2000円で売却した。
前の持ち主は伊東から乗ったらしい。
伊東駅下北駅、遠野駅、(在)仙台駅という捺印を
眺めていると、鉄っちゃんの気持ちが少しわかる。
次の持ち主はどこから乗っただろうか?
この券、骨の髄までしゃぶってくれただろうか?